日に日に衰弱が進む形

2012.02.08

妻が彼の元にとどまるようになったのは、彼の意識が混濁してからです。出血などの大きなアクシデントはなく、日に日に衰弱が進む形で、彼は死に近づいていきました。入院から約三ヵ月。彼は完全に寝たきりで、視線は宙をさまよい、口の中でぶつぶつ何か言う声も、聞き取れなくなっています。全身が黄色いのは、黄疸のせい。これ以上やせられないほど、身体はやせていました。この頃になると妻は、朝から夕方まで、彼のベッドの脇で過ごすようになりました。「お任せします」と言っていたあの頃同様無表情な顔のまま、唇を湿したり、手を握ったり。「こんなに弱ってしまっては、しかたないですね」と繰り返す言葉には、何とも言えない哀しい響きがありました。その場面を見た当時は、彼女の「しかたない」は、夫の死が避けられないことを自分に言い聞かせる言葉として、受けとめた私です。しかし、両親を含め、病を得て許し合う人と人の関係をいくつも見てきた今、改めて思い返すと、彼女の「しかたない」は、ひたすら自分に対して向けられたものであった気がしてなりません。