長い社会生活を経た末にようやく男になる

2011.06.25

誰もが当たり前のように思っている「服のセンスがいいから、お洒落」という常識を脱しないかぎり、大人の装いを論じることができない、と思う。同様に「ファッションの情報に敏感だから、格好いい」「一流品をよく知っているから、装いの達人」といった世に蔓延している価値観もあえて封印している。その代わり、全編にわたって「装熟度」というものさしを用いた。大の男が本気でお洒落をする動機づけに、センスや敏感さや一流といった従来のものさしではまったく用をなさないと私は思う。装熟度とは、装いに関する成熟度、つまり、社会の中で自分の立場を把握し、どう装えば自分も周囲も心地よく過ごせるかを考え、装いに表現できるかをはかる尺度だ。昔、TPOという考え方が流行したが、装熟度は、それに加えて、着手の年齢やパーソナリティを意識して、その年のあなただからこそできる、華やかな装いをしましょう、というものである。フランスの女流作家、ボーヴォワールが著書『第二の性』の中で「人は女に生まれるのではない。女になるのだ」と書いたが、果たして、女性だけの話だろうか?「男も、男に生まれてきたのではない。長い社会生活を経た末にようやく男になるのだ」と私は思う。だから、男として完成に近づくほどに、装熟度が高まり、若いころよりもはるかにお洒落で、魅力的になっていくのはごく自然なことだ。若者の特権と捉えられがちなファッションに関しても、年齢を重ねることは少しもマイナスにはならない。胸を張って、そういえる日が来ることを願っている。

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