物語は美容情報源

2011.03.31

父が娘の美容に手を出し口を出していた平安時代、彼らはどこから美容の知識を得たのか。『宇津保物語』の大貴族(先の男主人公とは別人)は、東宮の三人目の息子を生んだ娘に“手づから”料理を差し上げながら、「私は妻のお産を何度もお世話したから知っている。産婦はこのようによくいたわれば、美貌もとくに損なわれぬものなのだ」と息子たちに教えている。『宇津保物語』はフィクションだからすべてを鵜呑みにはできないが、大貴族の家には、もしや代々伝わる美容法があって、しかもそれは母から娘にではなく、父から息子へと教えられていたのかもしれない。現実に大貴族の家では、兄弟たちは使用人のように姉妹の外出の送迎をしたり、番犬のように姉妹の警護をしている記録が見られるから、エステテイシャンのごとく、父や夫が娘や妻に奉仕するということも「あり」かもしれない。『医心方』のような医学書の類いを参考にすることもあったろう。『医心方』は平安中期にできた、現存する日本最古の医学書で、天皇家に献上されて秘書となったものだが、全三十巻の中には、美しい髪や肌作りの処方ばかりを集めた美容に関する巻もある。この一点をとっても、「いかに美しく、老いを遅らせるか」が、当時の貴族にとってどれほど大きな関心事であったかがわかる。美容は特権階級が権力を握るための実用性のあるものであり、同時に贅沢でもあった。その意味で美容は物語に似ている。女たちはといえば、その物語から、美容知識を吸収してもいたのである。
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