グリーンラインの待合室の前から、どのくらい大八車スタイルの力車に揺られただろうか。正直なところ、僕にはさしたる不安もなかった。朝露が静かに動いていくなかを進む光景が気に入っていた。どこからか聞こえる鶏の声。焚き火の匂い。しんとした国境への道に、ぼろのような布をマフラー代わりに巻いた車夫の息づかいとペダルの音だけが響いていた。しかし国境というところは、やはりトラブルの宝庫でもあるらしい。朝需のなかに国境のバーが見えてきたあたりで力車を降りた。
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車夫にニクカを渡すと不満そうな顔が返ってくる。もう一タカと懇願する車夫を蹴散らしてくれたのは、先に到着していたグリーンラインのバス会社のスタッフだった。彼はやや引きつった顔つきで、僕らのパスポートを差し出した。「入国カードがないんです」その通りだった。前日の朝、山から降りてバングラデシュに入国したとき、イミグレーションの職員が、そのカードはいらないといったのだ。やはりここにきてもめてしまったか……。バングラデシュとはこういう国なのだ。