州立刑務所の試み

2011.04.13

ダナムラはニューヨークの北、カナダとの国境に近い田舎町である。元来は良質な鉄鉱の産地で、スウェーデン鋼の産地ダナムラにちなんでつけられたという。しかしニューヨークっ子にとっては、州の刑務所(プリズン)の所在地として知られていた。オルバニーからは双発のプロペラ機で一時間。僕たちは月に一回一晩泊まりで手術に行った。空港からは迎えの車でプリズンに向かう。小さな村ほどの施設を高い外壁が囲っている。大きな鉄の扉が開き、車が入るとギーと閉まる。カフカの小説ではないが、もしこのまま開けてもらえなかったらと、慣れてきても不安のよぎる一瞬である。中には独房、大部屋から、運動場、食堂、職員棟まで病院コミュニティーを形成する要素はすべて完備している。僕たちレジデントがここに来るようになったのは、形成外科による囚人のリハビリという州政府のプログラムの一環だった。囚人には人相で不利益をこうむっている者が少なくない。そこで、顔の傷痕、喧嘩でつぶれた鼻、入れ墨など娑婆に戻っても更生のじゃまになりそうな要素を少しでも取り除いて、社会復帰に役立つかどうかの実験であった。とかく美容外科の手術は、スタッフが自分でメスを握り、レジデントには回さない。そこで刑務所は、僕たちレジデントの格好の練習場であった。また、囚人たちにとっても、娑婆では目の飛び出るほど高額な美容外科の手術を無料で受けられるので、こんなうまい話はない。しかも彼らは毎日退屈している。麻酔が効かなくても、医師のメスを持つ手がふるえていても、じっと手術台におとなしく寝ていてくれる。いつも助手をしてくれるのは、まだ若い釈放間近の背の高い細面の模範囚であった。その後、帰国間近になってオルバニーのスーパーで声をかけられたとき、髪をきれいにとかし、こざっぱりとした背広姿の彼が、あのときの手術助手とわかるまでに、ちょっと間が必要だった。この試みの結果については、長年の追跡調査が必要なこともあり、僕は承知していない。しかし、人相が与える悪印象を和らげることはたしかだから、なにがしかの効果は期待できるのではないだろうか。
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